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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
みんな防寒具にかゝった雪を払い払い彼につきあたって通った。ブル/\慄えている脚はひょろ/\した。彼は、道の真中にある石のように邪魔になった。看護卒がやかましく呶鳴った。
脇へよけようと右を向くと、軍医が看護長に、小声で、
「橇は、うまく云ってかえして呉れんか。」
そう云っているのが聞えた。彼は、軍医の顔をみつめた。そこに何か深い意味があるように感じた。軍医は、白い顔を傷病者の視線から避け、わざと降る雪に眼を向けていた。
栗本は、ドキリとした。もう、如何に田口から委しいことをきいても、取りかえしはつかない、と感じた。
病室の入り口では護送に行く筈だった看護卒が防寒服をぬぎ、帯剣をはずして、二三人で、何かひそ/\話し合っていた。負傷者が行くと、不自然な笑い方をして、帯皮を輪にしてさげた一人は急いで編上靴を漆喰に鳴らして兵舎の方へ走せて行った。
患者がいなくなるので朝から焚かなかった暖炉は、冷え切っていた。藁布団の上に畳んだ敷布と病衣は、身体に纒われて出来た小皺と、垢や脂肪で、他人が着よごしたもののようにきたなかった。
「あゝ、あゝ、まるで売り切りの牛か馬のようだ。