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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

氷蔵の二階

宮本百合子

一

表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆塵埃(ほこり)を立てた。まして、今は春だし、練兵場の方角から毎日風が吹くから、空気の中の埃といったらない。それが、硝子につく。硝子は、外側から一面薄茶色の粉を吹きつけたように曇っていた。何年前に、この大露台の硝子は拭かれたぎりなのだろう。

床は、トタン張であった。古くて、ところどころに弛みが来、歩くとベコン、ベコン、大きい音がした。屋根でも歩くようだ。房は、古いスリッパを穿き、なるたけ音をさせないように注意しながら、どこか閉(た)てきった硝子戸をあける場所はないか探した。

大きい西洋料理屋の何かで、椅子卓子(テーブル)の時分はよかったろうが、穢い洋式の部屋に畳を敷いて坐っていると、大露台の閉めきりなのが、いかにも鬱陶しかった。入口は三尺の西洋戸で区切られている。東は二間窓だが、細かい亀甲模様のこれも硝子障子で、いい風通しにはならない。第一、うっかり開けたら、二尺と離れていない隣の俥屋の二階から、どんなものが彼女の寝ているところへ入って来まいものでもなかった。