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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

一頻り吹いて静かになった。間を置き、今度は、二声ずつに区切って鋭くヒューヒューと鳴った。

房は思わず志野の顔を見た。志野はまるでうんざりした表情だ。彼女は、何か云おうとする房を、いそいで眼で制した。手招きをして、房の頭を運ばせ、耳に囁いた。

「一寸戸をあけて見て来てくれない?」

せき立てるように、また階子口で口笛が鳴った。志野は立ちかねている房を、拝む真似をした。指の先を擦り合わせて。

房は、さっと内から戸をあけ、五燭の蠅の糞のこびりついた電燈の光で、廊下を見た。男が戸の方を向いて立っていた。が彼女を見ると、急に外方(そっぽ)を向き、別な間借人の出て来るのを今一寸待ち合わせているという風に、呑気らしく、窓框(まどかまち)に靠(もた)れて脚をぶらぶらさせた。

四

時候がよくなったせいか、志野はよく勤めの帰途どこかへ廻った。夕飯をしまってから、更めて出なおすこともある。

「お房さん、あなたも行って見ない? 矢張り元局にいた人で、そりゃ面白い人よ」

「――私はよすわ」

「じゃそこいら辺までつき合わない?」

遅くかえったりした時、志野は何か気がかりな風で室を見廻しながら、房に訊いた。