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えがわらんこ
江川蘭子
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页
眠り薬
随って、即死少女の血を見た時、無意識がいかにおびえたとしても、彼女の意識は殆ど無関心であった。
それから間もなく、関西の大都会での興行の折、とうとう来るべきものが来た。ラン子にパトロンがついたのだ。豚の様に肥え太った老資産家の愛撫が、彼女の心と身体にどんな急激な変化を与えたかは想像に難くはない。この老人こそ、江川蘭子の悪魔の生涯の、謂わば一種のポイントマンであった。
眠り薬
戸山定助老人につれられて、阪神沿線の洋風別邸に這入るまで、ラン子は、ただこの豚老人の前で、得意の軽業をやって見せればいいのだと思い込んでいた。
「何か御目にかけましょうか」
バルコンへ出た時、ラン子は庭の高い樹木を眺めて、無邪気に云った。彼女にはまだ、そんな野生の樹木に、猿の様に昇って見たい慾望が、いくらか残っていた。
「軽業かね。それもいいがね。もう日も暮れる。部屋へ這入って何かたべようじゃないか」
老人は絶えぬ笑顔を、一層歪めて室内へと誘った。
コックの爺やが御馳走とお酒を持って来た。ラン子はそのお酒をたらふく勧められて、真赤に酔っぱらってしまった。彼女はもうお酒の味を知っていたし、それが嫌いではなかったのだ。