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えがわらんこ

江川蘭子

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页

青空文庫

ラン子がアダムス青年の肘をつついて、クスクス笑いながら云った。

「眠り薬よ。この人が常用しているジァールの分量をちょっぴり多くした丈けなのよ。ホラ、御覧なさい。もう眼を覚しかけているわ」

二人が腰かけたまま、頬をすれすれに並べて、人間クッションの顔をのぞき込むと、老人は睡眠薬の効力がまだ失せないのに、腹の上の運動で無理に揺りおこされた、朦朧とした意識で、ボンヤリ薄目を開けて、じっと二人の姿を見つめていた。

「アラ、笑ってるわ。こんな目に合うのが、きっと嬉しいのよ」

それは冗談ではなかった。老人はウットリと目を細めて、ゆるんだ頬でニタニタと、気味悪く笑っていた。

それを見ると、二人とも、少し恐くなって立上った。

「そうじゃないわ。何か嬉しい夢でも見ているんだわ。平気よ。平気よ」

ラン子が止めたけれど、アダムス青年は老人が本当に目を覚さぬ内に帰ると云い張った。

「じゃあ左様なら」玄関まで送って行ったラン子が、そっけない調子で云った。「あたし、やっぱり、あんたよりはお爺さんの方がいくらか好きだわ。だって、あんた、あいの子の癖に、意気地なしなんだもの」

という事件があってから、ラン子の心に、又一段の変化が来た。