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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

岡本綺堂『江戸情話集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:籠釣瓶、箕輪心中、両国の秋、心中浪華の春雨、鳥辺山心中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 页

青空文庫

た。

「覚えているがいい」

持っていた手拭を男に叩き付けてお米は衝と起った。顔いっぱいの涙を丸めた袂で強く拭いたかと思うと、彼女は忽ち跣足になって、横手の蓮池を目ざしてつかつかと駈け出した。池はこの頃の雨に水嵩をおびただしく増して、蓮の浮き葉は濁った泥の浪に沈んでいた。

十吉はおどろいた。これも跣足になって駈け出して、もうひと足のところを汀から危うく曳き戻した。お米は狂人のように身をもがいたが、男の力にはかなわないで再び縁さきまで泣きながらよろけて帰った。

奥にひそんでいる問題の人はこの争いをさっきから窺っていて、出ようか出まいかと躊躇していたが、もう堪まらなくなって襖をあけた。彼女はしずかに縁さきに出て、そこに泣き倒れているお米の肩をやさしくなでた。

「もし、お米さんとかいう子、お前も短気はやめなんし。わたしはこう見えてもほかに立派な男がおざんす。ここの家のお嫁かなんぞのように疑われては、十さんも迷惑、わたしも馬鹿らしゅうおす。もういい加減に泣くのを止めて、十さんと仲好くおしなんし」

まだ腑に落ちないような恨み顔をしているお米にむかって、綾衣はしみじみと言って聞かせた。