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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

岡本綺堂『江戸情話集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:籠釣瓶、箕輪心中、両国の秋、心中浪華の春雨、鳥辺山心中。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 页

青空文庫

彼女は肱をついて試みに起き直ったが、もう眩暈がするようなことはなかった。さっきは舞台で蛇を頸に巻いていると、その蛇がだんだんに強く絞め付けて来るように思われて、しだいに眼がくらんで気が遠くなった。それから楽屋へ運び込まれるまで、彼女はなんにも知らなかったのである。多年可愛がって使い馴らしている蛇が自分を絞める筈がない。まったく暑気あたりで眼が眩んだものだと、お絹はその当時のありさまをおぼろげな記憶の中から呼び出した。

「もう何ともありませんか」と、お花も摺り寄って訊いた。

「もう大丈夫、みんなもびっくりしたろうね。堪忍しておくれよ」と、お絹は案外にはきはきした声で言った。

「歩いて帰れますか。駕籠でも呼んでもらいましょうか」と、お花はまた訊いた。

「そうねえ」

お絹は鳩尾をかかえるように俯向きながら考えていたが、ふと何物かがその眼先きをひらめいて過ぎたように、きっと顔をあげた。

「なに、もういいだろう。あたし、あるいて帰るよ。すぐそこだもの」

酔いざめの人のように、まだ何となくふらふらする足元を踏みしめて、お絹は花魁のような紅い衣裳をぬぐと、肌襦袢は気味の悪いほどに冷たい汗にひたされていた。