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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
岡本綺堂『江戸情話集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:籠釣瓶、箕輪心中、両国の秋、心中浪華の春雨、鳥辺山心中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 页
「八橋の座敷には誰が来ている。立花屋の客かえ」と、栄之丞は訊いた。
「あい、そうでござります」と、女は答えた。
栄之丞と次郎左衛門とは茶屋が違っていた。
立花屋の客というのは、もしや次郎左衛門ではないかと栄之丞は直ぐに胸にうかんだ。次郎左衛門が来ているとすれば、挨拶をしないのも義理がわるい。しかし彼は次郎左衛門と顔を合わせたくなかった。次郎左衛門が来合せている時に、八橋にむかって身請けの話を言い出すのも妙でないとも思った。
栄之丞はいっそ八橋に逢わずに帰ろうかとも考えた。しかしまた出直して来るのも面倒であった。身請けの話はともかくも、かの十両の問題はどうしてもきょうのうちに解決して置きたかったので、彼は考え直してまた根よく待っていた。
八橋はなかなか来なかった。栄之丞よりも茶屋の女が待ちかねて、新造のところへ催促に行った。催促されて八橋はようよう出て来たが、風邪をひいて頭痛がするとかいって、彼女はひどく不気色らしい顔をしていた。
「お客は佐野の大尽かえ」と、栄之丞が念のためにまた訊いた。
「いいえ」
その返事を聞いて栄之丞も少し安心した。杯のとりやりを型ばかりした後に、茶屋の女を遠ざけて栄之丞は早速本題にはいった。