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じんちょうげ
沈丁花
宮本 百合子
「文芸春秋」1927(昭和2)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,478 字 · 19 页
ただ方便のように偉い人々のところを廻っていたって自分が立派にはならないと思います」
はる子は、千鶴子が、過度に自分の言葉に重み、完成さというようなものをつけ対手に印象を強いるような癖があるのなどもそんな故と思わぬではなかった。当然及ばぬものに向って背伸びするからと思うのであった。その日は、はる子が一緒に暮している圭子もそこにいた。千鶴子は、唇に一種の表情を浮べながら聞いていたが、
「私もそう思います」
と真直に受けた。
「あなたにお会いしてから、私少し自信がもてて来たのです。普通の人間、自分と同じような女の人がそうやって仕事をしているなら、自分だって出来るという心持がして来たのです」
「それは結構だわ――何か掴えたら放しちゃ駄目ね、本当に」
千鶴子は、そうでない証拠を示すように、
「この頃書いていますよ」
と云った。
多くの男の作家志望者の中に間々あるように出世の近路をあがき求めて千鶴子が×さんや×氏に出入りした。それは明らかであったが、彼女が内心に強い芸術上の競争心を含んでいるらしいのがはる子の興味を牽きつけた。千鶴子の書いたもので読んだのは、彼女の小遣い取りの為、或る小さい刊行物へ圭子を通して載せて貰った漢文から種をとった短い教訓話だけであった。