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くつかけより

沓掛より

寺田 寅彦

「中央公論」1933(昭和8)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,751 字 · 18 页

青空文庫

そうして露台のデッキチェアーに仰向けになって植物図鑑をゆるゆる点検しながら今採って来た品種のアイデンチフィケーションに取りかかる。やっと一つぐらい見つかるころには、朝食の用意ができた、と窓の内から声がかかるのである。

図鑑を見ただけで、なんらの疑点もなく明確にこれだと決定できる場合は存外少ない。ほとんど同じではあるが、どうも少しちがうようだ、という場合がはなはだ多い。書物の記載も、見取り図も至極簡単であるからやむを得ない。

そういう場合における品種鑑別の正確度に関する疑いをいっそう強められるようになったのは、非常によく似ていて、しかも少しずつちがうというような草の種類が非常に多いという事実に気がついたからである。たとえば「いぬごま」とか「かわみどり」とかいうものの兄弟従兄弟といったようなものだけでも、いったいどのくらいあるかちょっと見当がつかないくらいである。このへんにたくさんあってだれにもいちばんに目につく「ししうど」と称するものでも、みんながはたして同じものかどうか子細に見ていると疑わしくなって来る。

もう一つ気がついておもしろいと思ったことは、何か一つの植物があるときっとその近所にそれとよく似た別の植物が見つかるということである。