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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
と云わないではいられなかった。
昨夜から今朝にかけて雪になっていた。私は炬燵に入って、叔母に向って駄々を捏ねていた。
「あすこの家へ行くと、すっかり分別臭い年寄りにされて仕舞うから……」
「だから、なおのこと行きなさいよ。面白いじゃないか、そういう家の内情なんて、小説なんかには持って来いじゃありませんか」
この叔母は、私の生家の直系では一粒種の私が、結婚を避け、文筆を執ることを散々嘆いた末、遂に私の意志の曲げ難いのを見て取り、せめて文筆の道で、生家の名跡を遺さしたいと、私を策励しにかかっているのだった。
「叔母さんなんかには、私の気持ち判りません」
「あんたなんかには、世の中のこと判りません」
だが、こういう口争いは、しじゅうあることだし、そして、私を溺愛する叔母であることを知ればこそ、苦笑しながらも、それを有難いと思って、享け入れている私との間には、いわば、睦まじさが平凡な眠りに墜ちて行くのを、強いて揺り起すための清涼剤に使うものであったから、調子の弾むうちはなお二口三口、口争いを続けながら、私はやっぱり河沿いの家のことを考えていた。
結局あの娘のことを考えてやるのには、どうしても、海にいるという許婚の男の気持ちを一度見定めてやらなければならなくなるのだろう。