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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
その後、久し振りで、陸に上って来た若い店員に思切って訊いた。
「どうしたら、私はあなたに気に入るんでしょう」
男はしばらく考えていたが、
「どうか、あなたが今よりも女臭くならないように……。」
海の男は相変らず曖昧なことを云っているようで、その語調のなかには切実な希求が感じられたと娘は眼に涙さえ泛べ、最上の力で意志を撓め出すように云った。
「私のそれからの男優りのような事務的生活が始まりました。その間二三度その男は帰って来ましたが、何とも云わずに酒を飲んで、また寂しそうに海へ帰って行きました。私はまだ、どこか灰汁抜けしない女臭いところがあるのかと、自分を顧みまして、努めようとしましたが、もうわけが分りません。迷い続けながら、それでも一生懸命に、その男の気に入るようにと生活して来ますうち、あなたにお目にかかりました」
東京の中で、朝から食べさせる食物屋は至って数が少い。上野の揚げ出しとか、日本橋室町の花村とか、昔から決っているうちである。そうでなければ各停車場の食堂か、駅前の旅籠屋や魚市場の界隈の小料理屋である。けれども女二人ではちょっと困る。私たちは寒気の冴える朝の楓川に沿い、京橋川に沿って歩いたが、そうそうは寒さに堪えられない。