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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

」

といって、軽く会釈して、さっさと店の方へ戻っていった。

あくる日に行ってみると、私に決めた部屋はすっかり片付いていて、丸窓の下に堆朱の机と、その横に花梨胴の小長火鉢まで据えられていた。

そこへ娘は前の日と同じ服装で、果もの鉢と水差しを持って入って来た。

「どういうご趣味でいらっしゃるか判りませんので、普通のことにして置きましたが、もし、お好きなら古い書画のようなものも少しはございますし……」

そこで果物鉢を差出して

「こういうふうなものなら家の商品でまだ沢山ございますからご遠慮なく仰って下さいまし」

果物鉢は南洋風の焼物だし中には皮が濡色をしている南洋生の竜眼肉が入っていた。

私はその鉢や竜眼肉を見てふと気付いて、

「お店は南洋の方の貿易関係でもなすっていらっしゃるのですか」と訊いた。

「はあ、店そのものの商売は、直接ではございませんが、道楽と申しましょうか、船を一ぱい持って居りまして、それが近年、あちらの方へ往き来いたしますので……」

娘の父の老主人はリョウマチで身体の不自由なことでもあり、気も弱くなって、なるたけ事業を縮小したがっている。しかし、店のものの一人に、強情に貿易のことを主張する男がいる。