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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
「ここに住宅地のようなものでもありますなら見物さして頂きたいのですが」
その晩、私たちをホテルまで送って来た社長は帰り際に「そうだ、護謨園の生活を是非見て貰わなくちゃ、――一晩泊りの用意をしといて下さい」
と云って更に、
「そりゃ、健康そのものですよ」
あくる朝、まず、社長がホテルに迎えに来て、揃ってサロンで待っていると、大型の自動車が入って来た。操縦席から下りたヘルメットの若い紳士を、社長は護謨園の経営主だと紹介した。
「電話でよく判らなかったが……」
と経営主は云ってから、次に、私たちに
「いらっしゃい。鰐ぐらいは見られます」
と気軽に云った。
車は町を出て、ジョホール街道を疾駆して行った。速力計の針が六十五哩と七十哩の間をちらちらすると、車全体が唸る生きものになって、広いアスファルトの道は面前に逆立ち、今まで眼にとまっていた榕樹の中の草葺きの家も、椰子林の中の足高の小屋も、樹を切り倒している馬来人の一群も、総て緑の奔流に取り込められ、その飛沫のように風が皮膚に痛い。大きな歯朶や密竹で装われている丘がいくつか車の前に現れ、後に弾んで飛んで行く。マークの付いている石油タンクが乱れた列をなして、その後にじりじりと展転して行く。