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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
それはひどく心を直接に衝った。何か人間にその因習生活を邪魔なものに思わせ、それを脱ぎ捨て度い切ない気持ちにさせた。そしてその原始の自然に食い込んで生活を立てて行く仕事が、何の種類であれ、人間の生きる姿の単一に近いものであるように考えさせられた。始終自然から享ける直接の豊饒な直観に浸れもしよう。
「二万円の護謨園をお買いになれば、年々その収益で、こっちへ休暇旅行ができますね。どうです」
座興的であったが若い経営園主がゆうべ護謨園で話の序にこういうことを云ったのも想い出された。
私の肉体は盛り出した暑さに茹るにつれ、心はひたすら、あのうねる樹幹の鬱蒼の下に粗い歯朶の清涼な葉が針立っている幻影に浸り入っていた。
そのとき娘が「あらっ!」と云って、椀を下に置いた。そして、「まあ、木下さんが」と云って眼を瞠って膝を立てた。
小座敷から斜に距てて、木柵の内側の床を四角に切り抜いて、そこにも小さな生洲がある。遊客の慰みに釣りをすることも出来るようになっている。
いま、その釣堀から離れて、家屋の方へ近寄って来る、釣竿を手にした若い逞ましい男が、娘の瞳の対象になっている。