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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
「多分あなただけのお気持ちでしょう、そんなこと、私たちには判らなかったからこそ、あの娘さんは死ぬような苦しみもし、何のゆかりも無い私のようなものまで、おせっかいに飛び出さなくてはならない羽目に陥って仕舞ったのですわ。」
私の語気には顔色と共にかなり険しいものがあったらしい。すると、彼は突き立てている膝と膝との間で、両手の指を神経質に編み合せながら、首を擡げた。
「ご尤もです。しかし、僕自身の気持ちが、僕にはっきり判ったのも、矢張りあなたが仲に入られたお陰なんです。その前まではただ何となくあの娘は好きだが、あの娘も女だ。あの娘も女だという事が気に入らない。ぼんやりこの二つの間を僕は何百遍となく引ずり廻されていました。僕とて永い苦しい年月でした。ま、とにかく、僕の身の上話を一応訊いて下さい。第一に僕の人生の出発点からして、捨子という、悲運なハンディキャップがついているんです。」
彼の語り出した身上話とは次のようなものであった。
東京の日本橋から外濠の方へ二つ目の橋で、そこはもはや日本橋川が外濠に接している三叉の地点に、一石橋がある。橋の南詰の西側に錆び朽ちた、「迷子のしるべの石」