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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
「今までの話、僕はあなたにお目にかかってどうしても聞いて頂き度くなったのですが、これをあの娘に直接話したら……」だんだん判って来たのだが元来あの娘には、そういった女臭いところが比較的少ない。都会の始終刺戟に曝らされている下町の女の中には、時々ああいう女の性格がある。だが若しそんな話をして、いくらかでも、却って母親達のような女臭さをあの娘に植えつけは仕ないだろうか、今はあんな娘であるにしても根が女のことだから、今は聞き流していても、それを潜在意識に貯えて、いつ同じ女の根性になって来ないものでも無い……そんな怖れからこれは娘には一切聞かせずに、いっそのことお世話序にあなたにだけ聞いて頂こうと思った。世の中の男のなかにはこういう悩みを持つものもあるものだと、了解して頂き度い……と男の口調や態度には律義ななかに頼母しい才気が閃くのだった。
陽は殆ど椰子林に没して、酔い痴れた昼の灼熱から醒め際の冷水のような澄みかかるものを湛えた南洋特有の明媚な黄昏の気配いが、あたりを籠めて来た。
さき程から左手の方に当ってカトン岬見物の客を相手に、椰子の木に上っては、椰子の実を採って来て、若干の銭を貰っていた土人の子供の猿のような影も、西洋人のラッパのような笑声も無くなった。