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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

千枝子はそちらへ行った。

「何をしているの。」

兄は立ち上って、ちょっとお辞儀をした。

朝早く、畠に出てみると、土瓶のように大きな蟇蛙がいた。それの宿にするため、中を空洞にして、瓦や石を積み上げているのである。むずかしくてなかなか出来なかった。千枝子も手伝った。

「ここに、蛙がはいると、怖いわ」と妹がふいに言った。

「なぜなの。」

「蛙にさわると、疣が出来るんでしょう。」

「嘘だよ。」と兄が叫んだ。「お父さんが、そんなことはないと言ったよ。」

「お母さんは、ほんとだと言ったわ。ねえ、どっちなの。」

千枝子は返事に迷った。そこへ、お菊さんが籠を持ってやって来た。子供たちに疣のことを尋ねられると、彼女はにっこり笑って答えた。

「さわりかたが悪いと、疣が出来ますよ。さわりかたがよければ、疣は出来ません。」

彼女は畠にはいりこんで、キャベツや大根や小蕪をぬいた。

千枝子はそこにつっ立って、午前の陽光に照らされてる豊かな菜園を、しみじみと眺めた。男のように腰に両の拳をあてて眺めた。それから、お菊さんの後を追って行った。

「わたし、お願いがあるんですの。こちらの畠の仕事を、手伝わして下さいませんか。