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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

本当だとすると、僕には波多野さんの考えが分りませんね。」

そして彼は一人で饒舌りだした。――今までまだ、研究所はまとまった研究結果を挙げていないが、然しこういう施設は大変役に立つ。これによって、過去の文化の誤謬が発見され、将来の文化への一指針が確立されるだろう。その上、ここの研究員を中心にして、青年や壮年の優秀な分子を、一定の組織へと動員することも可能である。一千名ほどはたちどころに獲得出来る。その優秀な一千名は、やがて一万となり、十万ともなるだろう。これは波多野さんにとって、有力な活動地盤である。――嘗て高石老人が側近の者に洩らしたところを、山口はそのまま繰返した。

「それを、むざむざ打ち捨ててしまうというのは、僕にはどうも納得しかねますね。」

それから彼は少し声をひそめて言った。――何とかいう酒場を、波多野さんが買い取ったという噂もある。そういうことは、将来のため寧ろ遠慮すべきであろう。文化研究所をやめて、酒場の主人になる、これほど不合理なことはない。

「波多野さんは何をやりだすか分りませんよ。周囲の者がよく注意していなければいけません。あなた方も、よく注意しておいて下さいよ。