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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

「千枝子さんは、あなたを好きだったようではありませんか。」

彼はまた唇を歪めた。ややあって言った。

「愚問には答えません。」

彼女は揶揄するように眼を光らした。

「でも、あのひと、好かれるたちね。山口さんは、ひところ、だいぶ熱心のようでしたし、佐竹さんも、好意を持っていらっしゃるようですよ。」

「だから、私もそうだというんですか。」

房江は頭を振って微笑んだ。

吉村も微笑んだ。

「あのひとは、なんだか気の毒ですね。顔も綺麗な方だし、頭もよい方だから、一応はまあ誰にでも好かれるでしょうが……単にそれだけですね。」

「それだけ……ですって。」

「つまり、恋人にも、また妻にも、ふさわしくないところがありますよ。」

「どんなとこなんでしょう。」

「恋人としては、顔の表情があまりきっぱりしすぎていますし、妻としては、手があまり美しすぎますよ。」

「そんなことが、邪魔になるでしょうか。」

「なりますよ。一応は好きになっても、それから先が躊躇される……つまり、後味がわるそうだというのでしょうか。」

「まあ、後味が……。」

「そういう女が、それも、普通の婚期をすぎた女に、ずいぶんありますね。