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こうずいたいりくをのむ
洪水大陸を呑む
海野 十三
「まひる」1947(昭和22)~1948(昭和23)年頃(掲載年月日不詳)
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,328 字 · 13 页
「ほら、道で立ち話をしている。二人の男の話が唇のうごきで分る。よく耳をすましていたまえ」
おじさんが注意した。と、なるほど、かすかではあるが会話が聞える。
“なげかわしいことだ。こんなに道義がすたれては、生きているのがいやになった”
“あくことをしらないこの頃の人間の欲望。神をおそれない人々。いくら美しく飾りたてようと、これは人間の世界ではない。禽獣の世界だ”
“今に、天のおさばきがあろう。いや、すでにそのきざしが見える。君は気がついているか”
“うん。君は弟月のことをいっているのだろう。弟月が、だんだんあやしい光を強め、大きくふくれて来るわ。気味のわるいことだ”
“天のおさばきは近くにせまったぞ。今となってはおそいかもしれないが、わしはもう一度人々にそれを知らせて、反省をうながそう”
“それがいい。わしも生命のあるかぎり、悪魔にとりつかれている人を一人でもいいから神の国へ引きもどすのだ”
二人のアトランチス人は、そこで話をやめて、しずかに祈りをささげると、右と左とに別れた。したがって、そのあとの声は聞えなかった。
三四郎の目には、いつしか涙がやどっていた。