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りゅうげんひご

流言蜚語

中谷 宇吉郎

「読売報知」1945(昭和20)年10月8日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,938 字 · 4 页

青空文庫

八月十六日の夜中に、けたたましい電話の音で起された。「一刻を争う重大問題だそうですから、直ぐ電話にかかって下さい」と家の者が蒼い顔をしている。聞いてみると、なるほど重大問題である。小樽へソ聯兵が二万上陸したから、戦時研究関係の重要書類を直ぐ焼却しろという話なのである。もうみんな非常呼集で集っているという。前日からの疲れでぐっすり寝込んだ寐入端を起されたので、大分不機嫌である。大体あの小樽の埠頭設備で、二万の武装兵力が上陸するのに何日かかるか、とても一日や二日で出来る話ではない。夕方まで何事もなかったのに、三時間や四時間後にもう二万の兵隊が出現しているとしたら、それはアラビヤンナイトの兵隊である。御免を蒙ってまた床に潜り込んでいたら、一時間ばかりしてまた電話が来て「今のはデマだったそうだから」という話で鳧がついた。

東京でも同じような話が沢山あったそうである。終戦から二、三日目に、某区で「今夜アメリカの兵隊が来るから、米国の国旗を用意し、御馳走を作って待っているように」という布告を回覧板で廻した所があった。某研究所長の話であるが、その研究所員の若い夫人が、回覧板を見て慌てて、研究所の夫君のところへ馳けつけたそうである。