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るてん
流転
山下 利三郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,715 字 · 12 页
「蕗子が殺されたのは、その晩の僅かな時間のあいだでした……。
私が訣別の詞を書いた手紙をもって戸外へ出ると、そこは彼女の家の裏まで田圃つづきです。彼女の居間に灯のついていることが、幾度か窓の下へ近よってゆくことを逡巡させましたが、ようやく思切って忍足に障子の際までゆくと、幸いその破れから内部を覗くことができました。
母に死別れて間のない、傷みやすい蕗子の心を波立たせたくない。能ることなら何も知らせずに、このまま土地を離れてしまいたい。この手紙だって、自分が旅立ってしまうまでは、見てくれない方が好いのだと思っていたのですが、都合の好いことには蕗子は他の部屋にでも行っていたのか、その部屋は空っぽだったのです。
分厚い手紙が、指先を放れて、窓障子の間からぱさりと音をたてて落ちました。
私は見咎められないように窓の下を放れて、私の家へ帰りましたが、そのからんとした空家……もうこれでお別れかと思うと、梁にかけられた蜘蛛の巣までに愛着が感じられたのです。気を取直して荷物を携げて停車場までゆきましたが、予定の汽車が出るまでには、まだ二時間近くも余裕があります。