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あさくさがみ
浅草紙
寺田 寅彦
「東京日日新聞」1921(大正10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,649 字 · 8 页
微細な断片が想像の力で補充されて頭の中には色々な大きな色彩の模様が現われて来た。
普通の白地に黒インキで印刷した文字もあった。大概やっと一字、せいぜいで二字くらいしか読めない。それを拾って読んでみると例えば「一同」「円」などはいいが「盪」などという妙な文字も現われている。それが何かの意味の深い謎ででもあるような気がするのであった。「蛉かな」という新聞の俳句欄の一片らしいのが見付かった時は少しおかしくなって来てつい独りで笑った。
どうしてこんな小片が、よくこなれた繊維の中で崩れずに形を保って来たものか。この紙の製造方法を知らない私には分らない疑問であった。あるいはこれらの部分だけ油のようなものが濃く浸み込んでいたためにとろけないで残って来たのではないかと思ったりした。
紙片の外にまださまざまの物の破片がくっついていた。木綿糸の結び玉や、毛髪や動物の毛らしいものや、ボール紙のかけらや、鉛筆の削り屑、マッチ箱の破片、こんなものは容易に認められるが、中にはどうしても来歴の分らない不思議な物件の断片があった。それからある植物の枯れた外皮と思われるのがあって、その植物が何だということがどうしても思い出せなかったりした。