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あさまさんろくより

浅間山麓より

寺田 寅彦

「週刊朝日」1933(昭和8)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,574 字 · 8 页

青空文庫

ちょっと見ると一と息で登れそうな気がするが、上り口の立て札には頂上まで五時間を要し途中一滴の水もないと書いてある。誘惑にはうっかり乗れない。

第一日には頂上までの五分の一だけ登って引返し、第二日目は休息、第三日は五分の二までで引返し、第四日休息、アンド・ソー・オン。そうして第八日第九日目を十分に休養した後に最後の第十日目に一気に頂上まで登る、という、こういうプランで遂行すれば、自分のような足弱でも大丈夫登れるであろう。

こんなことをいいながら星野の宿へ帰って寝た。ところがその翌日は両方の大腿の筋肉が痛んで階段の上下が困難であった。昨日鬼押出の岩堆に登った時に出来た疲労素の中毒であろう。これでは十日計画の浅間登山プランも更に考慮を要する訳である。

宿の夜明け方に時鳥を聞いた。紛れもないほととぎすである。郷里高知の大高坂城の空を鳴いて通るあのほととぎすに相違ない。それからまた、やはり夜明けごろに窓外の池の汀で板片を叩くような音がする。間もなく同じ音がずっと遠くから聞こえる。水鶏ではないかと思う。再び眠りに落ちてうとうとしながら、古い昔に死んだ故郷の人の夢を見た。