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うみのししゃ

海の使者

泉 鏡花

「文章世界」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,811 字 · 10 页

青空文庫

「千鳥かしらん」

いや、磯でもなし、岩はなし、それの留まりそうな澪標もない。あったにしても、こう人近く、羽を驚かさぬ理由はない。

汀の蘆に潜むか、と透かしながら、今度は心してもう一歩。続いて、がたがたと些と荒く出ると、拍子に掛かって、きりきりきり、きりりりり、と鳴き頻る。

熟と聞きながら、うかうかと早や渡り果てた。

橋は、丸木を削って、三、四本並べたものにすぎぬ。合せ目も中透いて、板も朽ちたり、人通りにはほろほろと崩れて落ちる。形ばかりの竹を縄搦げにした欄干もついた、それも膝までは高くないのが、往き還り何時もぐらぐらと動く。橋杭ももう痩せて――潮入りの小川の、なだらかにのんびりと薄墨色して、瀬は愚か、流れるほどは揺れもしないのに、水に映る影は弱って、倒に宿る蘆の葉とともに蹌踉する。

が、いかに朽ちたればといって、立樹の洞でないものを、橋杭に鳥は棲むまい。馬の尾に巣くう鼠はありと聞けど。

「どうも橋らしい」

もう一度、試みに踏み直して、橋の袂へ乗り返すと、跫音とともに、忽ち鳴き出す。

(きりきりきり、きりりりりり……)

あまり爪尖に響いたので、はっと思って浮足で飛び退った。