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かいすいよく
海水浴
寺田 寅彦
「文芸春秋 第十三年第八号」1935(昭和10)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,721 字 · 10 页
ある日高知から郵便でわれわれ三人で撮った写真がとどいてみんなで見ているところへその女もやって来てそれを手にとって眺めながら「キレーな人は写真でもやっぱりキレーや」というようなことを云った。Rは当時有名な美少年であったがKも相当な好男子であった。その時KがRに「オイ、R、ふるえちゃいかんよ」と云ってからかった。その言葉の中に複雑なKの心理の動きが感ぜられておかしかった。もっともそんなつまらないことを覚えているのは、当時の自分の子供心に軽い嫉妬のようなものを感じたためかもしれないと思われる。
もう一人の同宿者があった。どこかの小学校の先生であったと思う。自分で魚市場から買って来た魚をそのまま鱗も落さずわたも抜かずに鉄網で焼いてがむしゃらに貪り食っていた。その豪傑振りをニヤニヤ笑っていたのは当時張良をもって自ら任じていたKであった。自分の眼にもこの人の無頓着ぶりが何となく本物でないように思われた。
夕方内海に面した浜辺に出て、静かな江の水に映じた夕陽の名残の消えるともなく消えてゆくのを眺めていると急に家が恋しくなって困ることがあった。たった三里くらいの彼方のわが家も、こうした入江で距てられていると、ひどく遠いところのように思われたのであった。