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かいりゅう
海流
宮本 百合子
「文芸春秋」1937(昭和12)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,977 字 · 72 页
将来御許の片腕となって家運挽回をはげむにも今の世の中に小学きりではと思い、私は泣いて行ってくれと申せど、悌二は兄さんには僕の心持がきっと分ってもらえると申して承知しません。一応御許とも相談いたした上でと思い云々。父親の源太郎が、そんなことを云う意地気のない奴は学問なんどせんでええ! 馬車ひいておれ! と憤激している姿も、母親の手紙の文面に髣髴としているのであった。
悌二の方は、いかにも永くかかって下書きしたのをまた次の晩電燈の下で永い時間かけて清書したらしく、消しの一つもない手紙に、ありどおりのいきさつと自分の心持とを披瀝していた。父上が意気地無い奴と罵られるのも無理はないと思います。けれども、僕には正直なところ、家が苦しい中からそんな思いをしてまで学校をやってゆくだけ自分の頭に自信がありません。幸僕も体の方は兄さんに負けないつもりだから、僕は兄さんの手足となって家のために働くつもりです。僕のようなたかの知れたものが、現在の家の事情でいくらかでも学資をつかうよりは、その分も兄さんにつかって貰った方が有意義だと信じるのですが如何でしょう。兄さんの将来の目ざましい成功は故郷の何人も期待して疑いません。