轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
アーエートは西側の海岸の岩隙の壁に凭れ、眼をあいたまま死んでいた。左手にパイプを持ち、右手は外套のポケットにさしこまれたままであった。なにか神秘な力が突然に襲いかかり、島の研究を中絶させたと思うほかはないような死にかただった。
思いついて私はそのほうへ歩きだした。煙突を縦に切ったような割目が岩壁に深く喰いこみ、その奥はやや広い洞になっているので、小さな小屋ぐらいなら、外部から見あらわされることなく隠しおわせられるはずだと思ったからである。
岩角に手をかけて降りて行って見ると、夏になれば、ししうばや、岩菊や、薄赤い雪罌粟などのわずかばかりの亜寒帯植物が、つつましい花を咲かせる優しげな岩隙も、いまはいちめんに氷と雪にとざされ、長い氷柱がいくつも鐘乳石のように垂れさがって洞の入口をふさいでいた。心をときめかしながら氷柱の隙間からその奥へ入って行くと、洞穴はあっけなく四五間で行きどまりになり、羊歯や馴鹿苔が岩の腹に喰いついているのが認められるだけで、人が住んでいるようなしるしは、なにひとつ見あたらなかった。
洞の中はうす暗く、おどんだような闇の中から、いまにもアーエートの亡霊が朦朧とよろめきだしてくるような気がする。