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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
私は塩蔵所の岩蔭になにか夥しい白骨が散乱していたことを思いだし、帰途、大廻りしてそこへ行き、胸をとどろかせながら掻きさがして見たが、海象や膃肭獣の骨があるばかりで、人骨などは見あたらなかった。
私は避難所の煖炉のそばに坐りこみ、血のように赤い薔薇の花簪を手のなかで弄びながら、いったい、どういう素性の娘であったろうと考えた。
第七日
午前九時ごろ、ふとした想念が心をかすめ、半睡のうちに微弱な意識でそれを保っていたが、覚醒すると同時に、きわめて明白なかたちになって心の上に定着した。
彼女はこの島に生存しているのではないのか。この島に若い娘がいたとしても、それは彼等の生活の権利内のことであって、格別、隠しだてしなければならぬような性質の事柄ではない。また、その娘を殺害したとしても、死体はたぶん無造作に放置されたであろうということである。
この樺太には(その当時)一人の人間の死を、とやかくと問題にするような神経過敏な風習はない。死はひとつの「措定」であるとして、原因まで詮索しないのである。必要があれば、崖から落ちて死んだとでも、脚気が衝心して死にましたとでも、いいたい放題のとぼけたことをいってすまされるのであるから、横着な彼等が、いかなる理由によっても、死体の湮滅などを企てようはずがない。