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ふかがわにょうぼう
深川女房
小栗 風葉
「新小説」1905(明治38)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页
「まあ阿母さん、よくまあ!」とお光は急いで店先へ出迎える。
媼さんはニコニコしながら、「とうとうお邪魔に出ましたよ。不断は御無沙汰ばかりしているくせに、自分の用があると早速こうしてねえ、本当に何という身勝手でしょう」
「まあこちらへお上んなさいよ、そこじゃ御挨拶も出来ませんから」
「ええ、それじゃ御免なさいましよ、御遠慮なしに」とお光の後について座敷へ通りながら、「昨日あの、ちょいと端書を上げておきましたが……」
「あれがね、阿母さん、遅れてつい今し方着いたんですよ」
「まあ、そうですかよ。やっぱり字の書きようが拙いので、読めにくくってそれで遅れたんでございましょうね。それじゃお光さんにも読みづらかったでしょう、昔者の私が書いたのですからねえ」
「いいえ、そんなことはありませんよ。私にはよく分りましたけど、全くそういうわけで御返事を上げなかったんですから……さあどうぞお敷き下さい」
お光は蓐火鉢と気を利かして、茶に菓子に愛相よくもてなしながら、こないだ上った時にはいろいろ御馳走になったお礼や、その後一度伺おう伺おうと思いながら、手前にかまけてつい御無沙汰をしているお詫びなど述べ終るのを待って、媼さんは洋銀の細口の煙管をポンと払き、煙をフッと通して、気忙しそうに膝を進める。