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せいしんあん

清心庵

泉 鏡花

「新著月刊」1897(明治30)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 26 页

青空文庫

まあ、あとでどうなろうと、世間の人がどうであろうと、こんな処はとても私たちの出る幕じゃあない。尼様のお計らいだ、どうにか形のつくことでござんしょうと、そうまあねえ、千ちゃん、そう思って帰ります。

何だか私もぼんやりしたようで、気が変になったようで、分らないけれど、どうもこうした御様子じゃあ、千ちゃん、お前様と、御新造様と一ツお床でおよったからって、別に仔細はないように、ま私は思います。見りゃお前様もお浮きでなし、あっちの事が気にかかりますから、それじゃあお分れといたしましょう。あのね、用があったら、そッと私ンとこまでおっしゃいよ。」

とばかりに渠は立ちあがりぬ。予が見送ると目を見合せ、

「小憎らしいねえ。」

と小戻りして、顔を斜にすかしけるが、

「どれ、あのくらいな御新造様を迷わしたは、どんな顔だ、よく見よう。」

といいかけて莞爾としつ。つと行く、むかいに跫音して、一行四人の人影見ゆ。すかせば空駕籠釣らせたり。渠等は空しく帰るにこそ。摩耶われを見棄てざりしと、いそいそと立ったりし、肩に手をかけ、下に居らせて、女は前に立塞がりぬ。やがて近づく渠等の眼より、うたてきわれをば庇いしなりけり。