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せいひんのしょ

清貧の書

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,061 字 · 36 页

青空文庫

私は母の手紙の中の、義父が醤油をかけた弁当を持って毎日海兵団へ働きに行っていると云う事が、一番胸にこたえた。――もう東京に来て四年にもなる。さして遠い過去ではない。

私は、その四年の間に三人の男の妻となった。いまの、その三人目の男は、私の気質から云えばひどく正反対で、平凡で誇張のない男であった。たとえて云えば、「また引越しをされたようですが、今度は、淋しいところらしいですね」このように、誰かが私達に聞いてくれるとすると、私はいつものように楽し気に「ええこんなに、そう、何千株と躑躅の植っているお邸のようなところです」と、私は両手を拡げて、何千株の躑躅がいかに美しいかと云う事を表現するのに苦心をする。それであるのに、三人目の男はとんでもなく白気きった顔つきで、「いや二百株ばかり、それもごくありふれた、種類の悪い躑躅が植えてある荒地のような家敷跡ですよ」という。で、私は度々引込みのならない恥ずかしい思いをした。それで、まあ二人にでもなったならば思いきり立腹している風なところを見せようと考えていたのだけれど、――私達は一緒になって間もなかったし、多少の遠慮が私をたしなみ深くさせたのであろうか、その男の白々とした物云いを、私はいつも沈黙って、わざわざ報いるような事もしなかった。