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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
「中央公論」1920(大正9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页
けれども、こんな正隆の態度は、決して学生達を、長く鎮めてはいなかった。
三箇月も経たないうちに、正隆は、学生中の嫌われ者になり終せた。
たださえ彼の曖昧な、尊大振った、弱々しさに何かの物足りなさを抱いていた少年、或は青年達は、彼の不真実な挙動を見ると、もう黙ってはいない。彼の無能を罵る声や、彼の不熱心を訴える声が、教員室まで侵入して行き始めたのである。
そうなると、同僚の多くは、問題の主人公たる正隆に対して、何か不自然な、敬遠とも、嫌厭ともつかない表情で、相対するようにならずにはいない。
学生と同僚との、不安定な観察を身に感じる正隆は、心の中で、総ての人間共を侮蔑し、罵倒しながら、表面は平然と、蒼白い頬に冷笑的な薄笑いの皺を刻みながら、わざと、仮装した動じなさで、皆の、その眼前に姿を持ち出すのである。
全く、これは決して、正隆一人の不幸ではなかった。彼の周囲に生活して、程度の差こそあれ、多少とも彼と関係を持つ総ての者が、彼の気分の免れ得ない影響を受けた。
陰気な、外の人間の裡にある快活さや、率直さを一目で射殺すような正隆の眼を見ると、一人として、元の明快な気持を保っていることが出来なくなる。