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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
「中央公論」1920(大正9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页
床柱も、畳も、程よく寂びた離座敷にポツネンと坐りながら、正隆は、よく、その見えない敵に向って呪咀を投げた。
第一、正隆にとっては、このことの起りからが、疑問になって来た。これほど、言葉の不自由な、封建的な地方へ、何故、何の予備智識も持たない自分が、投げ込まれたのだろう。困るのは、解りきったことではないか。
その困るのを見て、皆が内心では侮蔑しながら、軽視し、邪魔物扱いにしながら、表面だけは、どこまでも、親切そうな、好意を持った仲間らしく扮(よそお)っている。それのみか、普通、こんな状態になれば、当然、提出されるべき免職沙汰も持ち上らないのは、どういう訳なのだろう。
若し、ほんとに自分の価値を認めて、留任を願うならば、何より自分には直接な関係を持つ学生に対して、何等か、緩和的な調停が与えらるべきではないか、それだのに、依然として、学生は自分の悪口を云い、解らない言葉を連発して苦しめるままに放任して置きながら、それから逃れる方法として免職させようともしないということは、正隆を考えさせる。
つまり彼等は、逃路を塞いで置いて、火をかけたようなものではないか。