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こすいとかれら

湖水と彼等

豊島 与志雄

「新思潮」1914(大正3)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,351 字 · 25 页

青空文庫

で祈るような句調で、「神様はお許しになりません。自殺は恐ろしい罪悪です。」

「いいえ、」と青年は言葉を続けた。「私に死を禁じたのは神ではありませんでした。それは……。」と云って彼は首垂れている女をじっと見た。「それは私達の愛でした。神様の目に罪と見える私達の愛でした。更に祈祷を捧げているうちに、何時のまにか死が逃げてしまったのです。私は死を否定して愛を――凡てを肯定する愛を受け容れました。そして……私は度々お祈りを致します。」

彼女の心にその時深い処から法悦の光りがちらとさした。凡てが許されて救われるであろう。自然と心が大きい何物かに融けていった。

「私は、」と彼女は云った。「あなた方が湖水の上でお祈りなさるのを見受けました。あなた方は手を組んで祈っていられました。そして涙を流して。丁度月が輝いていましたので……。」

「嘘です!」と青年は急に声を立てた。「私はまだ自分の心より外に祈祷を捧げたものはありません。私が祈る時、私は甞て両手を何物かに差出したことがあるでしょうか? 私は……私は何時も自分の胸に、自分の心に向けて手を合せたばかりです。」

「あなた、自分の心に嘘を教えてはいけません。