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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
芸者〆治と一つ自動車で帰宅して、それ以来疑わしい行動がないのですから、彼に死体を処理する余裕がなく、従って犯人でなかったことは明かです。第一惚れ抜いている女を殺す様なそれ程の動機もないのでした。それから例の怪しい人物が落して行った財布は、なる程、この家の主人の所持品でしたが、ただそれだけのことで、その後取調べて見ますと、彼は事件発生の時刻には、自分の部屋で寐ていたことが明かになりました。妻君を初め傭人の口うらがチャンと一致していたばかりでなく、子供までがそれを裏書きしてくれました。子供は嘘をいいません」
ここで又、河野は先夜の怪人物について、一応の説明を加えました。
「つまり、われわれの疑った嫌疑者達は、皆本当の犯人ではないことが分ったのです。われわれは往々にして余り間近かなものを、間近かであるがゆえに見落すことがあります。たとえ白痴に近いおろか者であるとはいえ、警察の人達はなぜ風呂焚き三造を疑って見なかったのでしょう。三助だって湯殿に附属した道具ではありません、やっぱり人間です。浴場の出入口は両方にあるのです。焚場からでも自由に脱衣場へ来ることが出来るのです。