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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页

青空文庫

二十九

私は、浴場の方へ気が走って、河野の長々しい説明をもどかしく思いました。田舎の巡査なんて暢気なもので、一向平気で腰を据えています。河野も河野です。説明はあとでもよさそうなものを、まだ長々と喋りつづけるつもりです。

「死体の処理に最も便利な地位に居ること、手の甲の煤跡、血のついた短刀、数々の贓品、つまり彼が見かけによらぬ悪人であること、これだけ証拠が揃えば、もう彼を犯人と見る外はないでしょう。あの朝脱衣場を掃除しながら、マットの位置のちがっているのを直さなかった点なども、数えることが出来ます。ただ殺人の原因は、私にもよく分りませんが、ああした白痴に近い男のことですから、我々の想像も及ばない様な動機がなかったとは限りません。酒にみだれた女を見て、咄嗟の衝動を圧え兼ねたかも知れない。それとも例の悪事を長吉に知られて、彼女の口から発覚することを恐れた余りの無分別かも知れない。それは想像の限りではありませんが、動機の如何に拘らず、彼が犯人であることは、疑う余地がない様に見えます」

「それで、彼は長吉の死体を、浴場の竈で焼いてしまったとおっしゃるのですか」

巡査が信ぜられないという顔で、口をはさみました。