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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
「これで見ると今の男は、ひょっとしたら例のトランクの紳士かも知れませんね。あの男ならこの財布の持主として相当していますからね」
何だかえたいの知れぬものが、私の頭の中でモヤモヤしていましたが、咄嗟の場合まずそんな想像が浮ぶのでした。
「しかし、妙ですよ。あれが人殺しの本人だったとすると、今頃何のためにこの辺をうろついているのでしょう。逃げ出した所を見れば、刑事なんかでなくて、犯罪に関係のある者には違いないのですけれど、それにしても妙ですよ」
河野は、考え考えいいました。
「曲者の姿形は少しも分りませんでしたか」
「エエ、アッと思う間に逃げ出したのですからね。暗闇の中を蝙蝠かなんかが飛んで行った感じでした。そんな感じを受けたというのが、つまり和服を着ていたからではないかと思います。帽子は冠っていなかった様です。脊恰好は、馬鹿に大男の様でもあり、そうかと思うと、非常に小さな男の様でもあり、不思議に覚えていません。湖水の岸を伝って庭の外へ出ると、向うの森の中へ逃げ込んだ様でした。あの深い森ですからね。追駈て見た所で、とても分るものではありませんよ」
「トランクの男は(松永とかいいましたね)肥え太った男でしたが、そんな感じはしませんでしたか」