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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
にしたほうが無難だと考え、本心をうちあけるようなこともせず、故意に無愛想な面で陶に対していた。
翌三十六年の六月、盛大な結婚式を挙げて陶は妻になった。これが貴様の母である。結婚の記念に、はじめて陶と逢った箱根三ツ石の湖畔に別荘を新築し、これに瀟湘亭と名をつけた。最初は愛々亭とするつもりで篆額まで彫らせたが、他人が笑うだろうと思ってやめにした。
新築匆々、箱根へ出かけ、二ヵ月ほど水入らずに暮していたが、妻になってから陶はいっそう活溌な素振りを見せるようになり、無邪気な遊び事を考えだしては、一日中、子供のように跳ね廻って遊んでいた。俺はただの一度も処女と交わったことがなかった。過去に引ッ張り合ったものはみな娼婦内侍のたぐいばかりだったから、真正の淑女というものは、どれほど真実で、愛情の深いものか、一向に御存知なく、心の深いところなどは、到底、見抜くことが出来なかった。後になって思うと、陶のそうした振舞いは、陰気な俺の気持を、いくらかでも賑わしてやりたいという純真な試みだッたのだが、俺はそれを育ちの悪い下司な所行だと解釈し、同族の誰彼がこんなところを見たら、なんと言うだろうと心配したものだから、厳重に規律して、華族の妻たるに相応しい女に作りあげようと決心し、市ヶ谷の本邸に帰るなり、式部寮のパーマー嬢に英語と西洋