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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

「陶が不埓を働いたから、手討ちにした」

と言った。

高木はエーッと息をひいて、顎のあたりを慄わせていたが、やがて眼を丸くして、

「不埓といって、どのような」

と痴な口をきいた。

「密通の現場を押えたから、殺してやった」

「相手は?」

「そんなことを俺が知るものか。これから東京検事局へ自訴して出るから、俺の弁護をして無罪にしろ」

高木は膝に手を置いて俯向いて考えていたが、しばらくすると如何にも当惑そうな顔で、

「サー、私には出来そうもありませぬ」

と答えた。

高木は旧藩士の伜で、米国の費府大学で状師の免状をとり、まだ若冠だが出来がよく、訴庭で法官と輸贏を争ってもヒケをとるような男ではないが、因循する性質で、大切な時を尻込して失敗ってばかりいる。かねがね遺憾に思っていたもンだから癪にさわって、

「なにをフーリッシな、貴様に出来ぬことがあるものか」

とキメつけると、高木は両手で頭を抱えこんで、

「いやア、私などには、これはよッぽどの難件です。成算がありませぬ」

「だから、それを相談しようというのだ。それとも、引受けられぬ事情でもあるのか」

高木は顔をあげて、

「ナーニ、そんなことがありますものか」