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こはん

湖畔

久生 十蘭

「文藝」1937(昭和12)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页

青空文庫

暮近い、暗い小道の落葉を踏みながら悒々と歩いているうちに、急に涙が胸元に突ッかけてきた。杉の幹に額をあてて泣いていると、その辺で、枝の折れるような音がした。

陶が両袖を胸の上でひきあわせ、顔を白ませて夕闇の中にボーッと立っている。俺は悲しみのために頭が狂い、また妄覚にとッつかれるようになッたのかと思い、影のようなものをぼんやりと眺めていた。陶は濃紫のお高祖頭巾をかぶり、同じ色の吾妻コートを着て、やはり俺のほうを瞶めている。しかし生きた人間でない証拠に、顔の輪廓が薄れたり朦朧となったりする。なんであろうと懐しくてたまらぬから、

「陶」

と声をかけると、陶は子供のようにしゃくりあげながら飛込んできて、息のつまるほど俺の首を抱きしめてオイオイ泣いた。

陶が死んだのではなかったと思うなり、陶の生きているところを誰かに見られたら、それこそ事だとうろたえだした。このあたりはまだ林の入口で村童がよく枯枝を拾いに来る場所だから、俺は陶の背を撫でながら、

「大きな声をだすな、人が来てはならんから」

と言うと、陶は急に泣きやんで、涙に濡れた大きな眼でジッと俺の顔を瞶め、