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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
俺は図に乗り、英人の論説を剽竊改刪して次々新聞紙上に発表したが、いずれも非常な反響を呼びおこし、臆病と無識の権化のようなこの俺は、狷介不覊の華族論客として、日に日に名声を高めることになった。
手術後、偏頭痛は大いに軽快したが、毎年晩春初夏の候になるときまって再発するふうなので、三十五年の初夏、脳病にきくということを聞いて、箱根の底倉へ湯治に行った。
あたかも六月の下旬で、窓に倚って眺めると、澗底の樹木は鬱蒼と新緑をたたみ、前面の峭崖から数条の小滝が落ち、その下に湧涌たる水声がある。俺は脳底に爽快をおぼえ、飽かずに眺め入ッていると、崖の狭ばまったところに架けた木橋を一人の少女が渡ってきた。
黄八丈の袷に被布を羽織り、髪に大形の薔薇の花頭をさしている。温泉場にはチト固苦しく上品に見えるものだから、気をとられて眺めていると、少女は顔をあげて俺と視線が合うや否や、頬を染めて腰をかがめ、一揖するなりソコソコに宿の中庭へ入って行った。
年の頃は十八九で、顔色はクッキリと白い中に桃の花のような紅味を帯び、眉は少し濃い方で、その間が狭ばまっていていかにも怜悧そうに見える。