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げんおじ

源おじ

国木田 独歩

「文芸倶楽部」1897(明治30)年8月10日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,455 字 · 23 页

青空文庫

されど源叔父が渡船の業は昔のままなり。浦人島人乗せて城下に往来すること、前に変わらず、港開けて車道でき人通り繁くなりて昔に比ぶればここも浮世の仲間入りせしを彼はうれしともはた悲しとも思わぬ様なりし。

「かくてまた三年過ぎぬ。幸助十二歳の時、子供らと海に遊び、誤りて溺れしを、見てありし子供ら、畏れ逃げてこの事を人に告げざりき。夕暮になりて幸助の帰りこぬに心づき、驚きて吾らもともに捜せし時はいうまでもなく事遅れて、哀れの骸は不思議にも源叔父が舟底に沈みいたり。

「彼はもはやけっしてうたわざりき、親しき人々にすら言葉かわすことを避くるようになりぬ。ものいわず、歌わず、笑わずして年月を送るうちにはいかなる人も世より忘れらるるものとみえたり。源叔父の舟こぐことは昔に変わらねど、浦人らは源叔父の舟に乗りながら源叔父の世にあることを忘れしようになりぬ。かく語る我身すらおりおり源叔父がかの丸き眼をなかば閉じ櫓担いて帰りくるを見る時、源叔父はまだ生きてあるよなど思うことあり。彼はいかなる人ぞと問いたまいしは君が初めなり。

「さなり、呼びて酒呑ませなばついには歌いもすべし。