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げんぞうがはら

源蔵ヶ原

山本 周五郎

「週刊文春」文藝春秋新社、1962(昭和37)年12月17日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,843 字 · 28 页

青空文庫

と宗吉が忠太に云った、「せわをやかせるな」

「泰さん」と忠太が呼びかけた。

泰二は両手を膝に突き、うなだれたままなにも云わなかった。

「立たねえのか、忠太」と宗吉が云った、「せわをやかせるなと云ったろう」

「頼むよ」と泰二が云った。

「勘弁してくれ泰さん」忠太は片方の腕で顔を掩いながら云った、「――勘弁してくれ」

市三が忠太の肩を叩き、忠太は弱よわしく立ちあがった。なんてえこった、と又次郎が云った。ほんとに、なんてこったろう。――市三と宗吉が、左右から忠太の腕を取った。又次郎は不決断に、忠太を見、振向いて泰二を見た。のろはせかせかと頭を掻いたり、泰二のほうを見たりした。忠太を中に、五人が去ってゆき、あとに泰二が独り残った。空の半月が薄雲に掩われ、源蔵ヶ原がいっとき暗くなった。

「お光」と泰二が云った。

彼は凍てた土の上を、片手で劬るようにそっと撫でた。

「お光」と彼は云った、「辛かったか」

彼の喉へ嗚咽がこみあげてき、全身がふるえだした。