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げんぞうがはら
源蔵ヶ原
山本 周五郎
「週刊文春」文藝春秋新社、1962(昭和37)年12月17日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,843 字 · 28 页
「その話をしていたよ」と忠太が云った、「若旦那に一生、顔向けがならないって」
宗吉はなにかを紛らわすように手を叩き、向うで女中の答えがした。そこへのろがはいって来た。
「おうさびいさびい」のろはわざとふるえ声で云いながら、市三の脇にある火鉢へいって跼みこんだ、「一朱おっことしたうえに財布をかっ掠われたような心持だ」
「きまってやがら」と又次郎が云った、「少しあったまると、こんどは十文儲かったような心持になるんだろ」
「どうした」と忠太が呼びかけた、「やつはいたか」
「あとから来るよ」とのろが答えた、「仕事が残ってるが、そういうことなら一と区切りつけてゆこうってさ」
「おめえ饒舌ったのか」と忠太。
「誰が、おいらがかい」と云ってのろは、軽薄らしく笑いながら首を振った、「とんでもございません、小判で面あ張られたって饒舌るこっちゃあござんせんよ」
女中が二人で酒を持って来、めいめいの膳へ置くと、あいている燗徳利をさげていった。
「なんだか妙だ」と又次郎が首を捻った、「なんだか妙なぐあいだぜ、忠太とのろとでなにかたくらんでるようじゃねえか、それとも宗ちゃんも市あにいも承知のうえか」