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とろ

瀞

佐藤 垢石

「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页

青空文庫

すると、娘が竿を水に突き出してから僅かに二、三分をへたとき、目印の揺曳に異状を認めた。私は、多年の経験によって、瀞場の鮎が囮鮎を追って、ついに掛け鈎にからだのどこかを縫い通されたのを知った。

どうじゃ、竿を持つ手に、いま何となく感覚の変化を感じないか。

と、娘に問うたのである。

そうね。そういえば少し竿先から微妙な変化が伝わってきますね。

娘は、なお懸命に目印の移動に心をとめているのだ。

そうだろう。もう鮎が掛かったのだ。竿先を、さらに一尺ばかり上方へあげてご覧。

竿先が一尺ばかりあがると、果然激しい勢いをもって沖の方へ走りだした。これは、鈎に掛かった鮎が、道糸の緊張に刺戟されて、遁走の行動を開始した表示である。こうなると、もう娘には竿を支えきれない。強く引き戻せば、細い道糸は僅かな、はずみで切れてしまう。やわらかく竿を振れば、竿を持ち去られそうになろう。鮒釣りに数回ほどの経験を持ったのでは、七月の鮎が友釣りの掛け鈎に掛かった場合、到底、その力をあしらいかねるのが当然である。

娘は腕をふるわせ、顔の筋肉を緊張させ、眼をみはり、口でなにか私に訴えようとするのであるけれど、咽から声が出ない。