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とろ

瀞

佐藤 垢石

「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页

青空文庫

この瀞場の鮎を釣るのに適した道具立てを持ち、そして父が教えるそのままの技術を踏んで、少しの私心を交えず竿を操ったから鮎が掛かったのである。いわばお前と父とは、個体こそ違え、釣りの意と技に伝える人格が一致したのだ。たとえば、父が自ら釣ったのと同じであったのである。

ところで、父の眼がお前の釣り姿から離れると、不思議に俄然川鮎は囮鮎に挑み掛かってこぬであろう。つまり、釣れぬのである。それは、父の眼が離れるとお前は、自らの心に帰り、自らの釣り姿に帰るためだ。自らの心、自らの釣り姿というのは、お前が友釣りについては真の初心者である正体を指すのだ。友釣りについて、真の初心者にはこの瀞場は一尾も釣れぬ。だが、お前は将来常に父を指導者として、己れの傍らに置くわけにはいくまい。きょうは竿の上げ下げにも、足一歩運ぶにも、やかましくお前の自由を束縛したけれど、これから後はきょうの指導を基礎としてお前の工夫と才覚と思案とをめぐらして、自由に気侭に釣ってみるがよい。

そこでお前の感ずることは、己れ一人の工夫、才覚、思案というものが、どんなに心をちぢに砕かねばならぬ難しい業であるのかを知るであろう。