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とろ

瀞

佐藤 垢石

「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页

青空文庫

ある朝、私は宿の主人に試みに旅籠料はいかほどであるかと問うたのである。ところが、主人は恐縮した顔で、なにかお気に召さぬことでもあったのでしょうか。旅籠料は一泊三食金四十銭でありますけれど、それでお高いと思し召すなれば、もっと安値にして置いても結構でありますと答えるのである。それをきいて、私の方では恐縮してしまった。

いやそんなわけではない。四十銭ではあまりに安値すぎる。そこで、朝夕もう一、二品ご馳走を添えることにして、もっと充分な値段らしい値段を請求するようにして貰いたいというと、主人は承知いたしましたと答えるのである。

期待の通り、その夜から小皿や汁物などが前夜までより一、二品ずつ多い。朝も生玉子などが添えてある。おいしい。

二、三日すぎてから私は、宿の主人を呼んで、今度は旅籠料をなんぼ値上げしたかと問うてみた。すると主人は、またも恐縮らしい顔をして、この辺にはこんな高い値段はないのですが、一泊三食四十五銭いただくことにいたしました。はやどうも、お気の毒さまにございますという。

それから七、八年過ぎて、再びこの謙井田で金四十銭の旅籠料にめぐり会った。