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かせいのうんが
火星の運河
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,715 字 · 10 页
血潮の網シャツを着た様だ。
それが沼の水面に映っている。火星の運河(!)私の身体は丁度あの気味悪い火星の運河だ。そこには水の代りに赤い血のりが流れている。
そして、私は又狂暴なる舞踊を初めた。キリキリ廻れば、紅白だんだら染めの独楽だ。のたうち廻れば、今度こそ断末魔の長虫だ。ある時は胸と足をうしろに引いて、極度に腰を張り、ムクムクと上って来る太股の筋肉のかたまりを、出来る限り上の方へ引きつけて見たり、ある時は岩の上に仰臥して、肩と足とで弓の様にそり返り、尺取虫が這う様に、その辺を歩き廻ったり、ある時は、股をひろげその間に首をはさんで、芋虫の様にゴロゴロと転って見たり、又は切られたみみずをまねて、岩の上をピンピンとはね廻って、腕と云わず肩と云わず、腹と云わず腰と云わず、所きらわず、力を入れたり抜いたりして、私はありとあらゆる曲線表情を演じた。命の限り、このすばらしい大芝居の、はれの役目を勤めたのだ。……………………………
「あなた、あなた、あなた」
遠くの方で誰かが呼んでいる。その声が一こと毎に近くなる。地震の様に身体がゆれる。
「あなた。何をうなされていらっしゃるの」